「寂聴訳 源氏物語 巻一」(紫式部/瀬戸内寂聴訳)

本書の特徴が最も生かされているのは「雨夜の品定め」

「寂聴訳 源氏物語 巻一」
(紫式部/瀬戸内寂聴訳)講談社文庫

桐壺更衣の生んだ皇子・光源氏は、
類い希なる美貌とともに
学問や芸能に
秀でた才を発揮する。
臣下となった源氏は
左大臣の娘・葵の上と結婚するが、
空蝉や軒端の荻、夕顔などと
関係を結ぶ。
なかでも継母・藤壺への思いを
断ちがたく…。

現在、阿部秋生校訂の書き下し文を、
時間をかけて読み進めていますが、
古文はどうしても理解が難しく、
立ち往生の連続です。
そのたびにいろいろや資料や解説文を
参照しているのですが、
なんといっても役に立つのは
(当然なのですが)現代語訳です。
これまで与謝野晶子訳、
谷崎潤一郎訳などを読んできましたが、
最もわかりやすいのは
本書・瀬戸内寂聴訳です。

原文がわかりにくいのは、
単に古語と現代語の相違だけではなく、
主語が省略されていることが多く、
行為や台詞の主体が誰なのか
把握しづらいことが
原因の一つなのです。
その点、寂聴訳は
ほぼ必要なすべてを補完し、
現代語に限りなく近づいているのです。
また、解説すべき情報は
すべて本文に織り込んでいるため、
注釈もありません。
今、最も理解しやすい
「源氏物語」となっています。

さて、その本書の特徴が
最も生かされているのは「帚木」の帖の
「雨夜の品定め」ではないかと感じます。
閑暇を持て余した論客三人が咲かせた
女性談義は、ともすると冗長であり、
読み飛ばしてしまいかねない部分です。

寂聴訳では
「女性の上中下三段階の判定方法」
「女性探しにおける中流重要論」
「良妻の条件とその選択の困難さ」
「女性としての在り方」等々、
こんなに面白いことが
書かれてあったのかと
改めて感じさせられます。
作者・紫式部が女性であることを
考えると、なお面白さが倍加します。

また、この「雨夜の品定め」は、
「帚木」「空蝉」「夕顔」の三帖の伏線が
張られている部分でもあるのです。
「中流重視」の一節は、
次の「空蝉」での源氏の思考に
影響を与えた考え方であるし、
頭の中将の語る「子をなしたのに
行方をくらました女性」とは
夕顔その人であるのです。
さらには「妻にするなら
子どもっぽい女を好みの女に
育て上げるのがいい」という論は、
第五帖「若紫」へと
繋がっている部分なのです。

寂聴訳を参照すると、
この「源氏物語」が
いかに緻密な構成のもとに
編み上げられているかが
よくわかるのです。
もしこれから源氏物語を読むにあたり、
どの現代語訳を選ぶか迷ったのなら、
この寂聴訳で間違いはありません。

(2020.2.22)

nanohaさんによる写真ACからの写真

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